バッハとリュート

BWV996 組曲ホ短調

s-996-1 s-996-2

 
【主要原典】
「Praeludio – con la Svite / da / Gio:Bast:Bach」(”aufs Lauten Werck.”と後世に付記)
J.G.ヴァルターによる二段五線譜 ベルリンドイツ国立図書館蔵 1710-1717年成立(新バッハ全集)

【リュート作品である根拠】
表題の後世の手になる「ラウテンヴェルク(リュート・チェンバロ)のための」という書き込みのみ
(撥弦楽器としてのリュートを想定していた証明はない)

【曲目】
Preludio(Passaggio-Presto)
Allemande
Courante
Sarabande
Bourée
Giga

【解説】
リュート、鍵盤楽器のいずれにせよ、バッハの最初期の組曲作品。リュートのために書かれた証明は一切ありませんが、「音域が低く、3オクターブという狭い範囲に収まっている」ことから、リュートを意識して作曲した、という説もあります。(デイヴィッド・シューレンバーグ『バッハの鍵盤音楽』小学館)

BWV997 パルティータ ハ短調

s-bwv997p1one4aa 997-2

【主要原典】
「C moll / Praeludium,Fuge,Sarabande / und Gigue / fürs Clavier, / Von J.S.Bach.」
J.F.アグリコラによる二段五線譜 ベルリン国立図書館プロイセン文化財部門蔵
1738-1741年成立(Bach Digital)

「Partita al Liuto Composta dal Sigre Bach」(Fantasía-Sarabande-Giga)
J.C.ヴァイラウフによるタブラチュア譜 ライプツィヒ市立図書館蔵 1720-1739年成立(Bach Digital)

【リュート作品である根拠】
J.C.ヴァイラウフによるタブラチュア譜の存在
(ただし、プレリュードをファンタジアという名に書き換え、フーガ、ドゥーブルは欠如)

【曲目】
Prelude
Fuga
Sarabande
Gigue
Double

【解説】
この曲の楽譜は10以上の筆者譜が伝わっていますが、J.C.ヴァイラウフによるタブラチュア譜以外は全て五線譜です。アグリコラによる筆者譜では「クラヴィーアのため」とはっきり書いてありますので、鍵盤楽器で演奏するのも当然と言えるでしょう。J.C.ヴァイラウフによるタブラチュア譜では13コースを要求し、低音弦をハ短調に合わせたうえ、6コースも半音下げる変則調弦を要求しています。また、ピッチの項でも書きましたが、ヴァイラウフの稿に依らず、現代のリュート奏者が高く移調して弾くことも歴史的解決法です。

BWV998 プレリュード、フーガとアレグロ 変ホ長調

s-998

 
【主要原典】
「Prelude pour la Luth. ò Cembal. par J.S.Bach.」
J.S.バッハ自筆による二段五線譜 東京上野学園大学蔵
1740年代半ば成立(Bach Digital)1735年頃(小林義武説)

【リュート作品である根拠】
バッハ自身の手により「リュートまたはチェンバロのためのプレリュード」との表題あり

【曲目】
Prelude
Fuga
Allegro

【解説】
バッハの自筆譜で伝えられていますが、アレグロの終わりの方では、用紙の節約のため、(1枚目の余白まで戻って)オルガン・タブラチュアに変換して書かれています。最後には「Fin」の文字もあり、変則的な構成とはいえひとまとまりの曲であることが伺えます。この曲の由来を1739年のヴァイスのバッハ家訪問に求める説もよく見かけます。しかし、小林義武氏は筆跡の鑑定から1735年頃の成立を唱えており、その説には否定的です。1740年のバッハによるヒルデブラントへのラウテンヴェルク製作依頼を契機とする説もあります。

BWV999 プレリュード ハ短調

s-bwv999

【主要原典】
「Praelude in C mol. / pour La Lute. / di / Johann Sebastian Bach.」
J.P.ケルナーによる二段五線譜 ベルリン国立図書館プロイセン文化財部門蔵
1727年の後成立(Stinson説) 1720年代半ば成立(Kohlhase説)

【リュート作品である根拠】
表紙に「リュートのためのプレリュード ハ短調 ヨハン・セバスティアン・バッハによる」との表記あり

【曲目】
Praelude

【解説】
ヴァイオリンやチェロ用の作品の編曲でもなく、鍵盤楽器とも兼ねない、リュートのためだけに作曲された唯一の作品です。しかし、J.P.ケルナーの筆者譜は、鍵盤楽器用に手直しされている可能性も指摘されています。(R.Stinson)

BWV1000 フーガ ト短調

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【主要原典】
「Fuga / del Signore Bach」
J.C.ヴァイラウフによるタブラチュア譜 ライプツィヒ国立音楽図書館蔵 18世紀半ば成立(Bach Digital)

【リュート作品である根拠】
J.C.ヴァイラウフによるタブラチュア譜

【曲目】
Fuga

【解説】
無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第1番ト短調 BWV1001 のフーガのリュート用の編曲。このフーガはオルガンのためのプレリュードとフーガ ニ短調
BWV539 にも編曲されており、それぞれ音の相違があります。どれが先かは確定できません。リュート版とオルガン版はバッハの自筆譜も無いことから、他者の編曲の可能性もあります。リュート版は特に冒頭部分でヴァイオリン版との相違が大きく、しかも2小節増えています。これを根拠に「編曲がバッハ以外の人物によって行われたとは考えにくい。」とする説もあります。(デイヴィッド・シューレンバーグ『バッハの鍵盤音楽』小学館)